悩みのリアル・脇汗編 — グレーが着られない、冷房の部屋でも止まらない、誰にも言えない
この記事は当事者の体験・感想と一般情報です。効果には個人差があり、内容は効果を保証するものではありません。症状がつらい場合は皮膚科などの医療機関にご相談ください。
脇汗で悩んでいるのは、あなただけではありません。手汗編に続いて、今回も私(タカン)が保証します。毎日X上の多汗症の投稿を読んでいると、脇汗の声は手汗より多いくらいです。
この記事は、部位ごとに当事者の悩みの声を集めて並べる「悩みのリアル」シリーズの第2弾・脇汗編です。対策や治療の話は最後に少しだけ。グレーのTシャツを諦めた朝に、会議室で腕を体に貼りつけている午後に、「ひとりじゃない」と思える場所になれば、それで十分です。
先にひとつだけ整理しておきます。この記事で扱うのは「汗の量」の悩みです。ニオイの悩み(いわゆるワキガ、腋臭症)は原因も対処も別の話なので、ここでは深追いしません。汗が多いこととニオイが強いことは、重なる人もいれば、片方だけの人もいます。
私自身は手汗と足汗が主戦場ですが、脇も他人事ではなく、夏の汗取りインナーはもう何年も手放せていません。だから、これから並べる声には実感で「わかる」と言えます。
服の色で、一日が決まる
脇汗の悩みは、朝、クローゼットの前から始まっています。
暑くないのに脇汗が垂れ続ける、これは多汗症だ、一生白か黒の服しか着られない、という投稿
「一生白か黒」。笑いながら書いているようで、当事者にはかなり正確な描写です。そしてこの投稿の前半、暑くないのに出るというところ。脇汗持ちの多くが共有している感覚で、あとで少し触れます。
多汗症だからグレーはNG、冬でも脇汗がすごい、という投稿
グレーは、脇汗持ちにとっての「可視化服」です。汗をかいた部分だけ色が変わって、輪郭までくっきり見える。夏だけの話ではなく冬でも、というのがこの投稿の大事なところで、脇汗は季節でどうにかなる問題ではない、という実感がにじんでいます。
薄いピンクの服を着てきたら脇汗が超目立つ、服のチョイスを間違えた、という投稿
淡い色は、グレーの次に危険です。「今日は涼しいから大丈夫かな」と気を抜いた朝ほど、こうなる。私も何度もやりました。
暑くないのに、出る
脇汗の困りごとの中で、当事者どうしでいちばん「わかる」が集まるのがこれだと思います。
心を開いている相手と話すときは出ないのに、職場の人などあまり話さない相手だと脇汗が出まくる、という投稿
脇汗の本質を突いた一文だと思っています。汗は気温だけで出るのではなく、緊張や気持ちでも出る。しかも「汗をかいたらどうしよう」と思った瞬間に、その不安がさらに汗を呼びます。当事者がいちばん憎んでいるのは、たぶんこのループです。
役所の手続きで、冷房が効いていたのに緊張で絞れるほど脇汗をかいた、という投稿
会議が苦手で、いつ当てられるかビクビクしているうちに、終わる頃には脇汗がびしょびしょ、という投稿
役所、会議、面接。冷房が効いている部屋で、自分だけが汗をかいている。あの「なんで自分だけ」という感覚は、部屋が涼しいほど強くなります。
これには、体の側の理由もあります。日本皮膚科学会の原発性局所多汗症診療ガイドライン2023年改訂版には、脇は体の中で汗が出始める体温がもっとも低い部位で、ほかの場所が汗をかかないような体温でも脇には汗が出ること、しかも腕でふさがれて蒸発しにくいため、少ない量でも「汗が多い」と感じやすいことが書かれています。涼しい部屋で脇だけ濡れるのは、根性や気の持ちようの問題ではなく、脇という部位の性質でもあるわけです。
面接で緊張しすぎて脇汗が止まらず、Web面接でなかったら終わっていた、という投稿
Web面接が救いになった、という声は本当に多いです。画面には脇が映らない。逆に言えば、対面の場では脇を見られる可能性が常に頭のどこかにある、ということでもあります。
汗パッドと、誰にも言えない気持ち
脇汗持ちの多くが、何かしらの「隠す道具」を持っています。汗取りパッド、汗取りインナー、替えのシャツ。そしてそれらは隠すための道具であるがゆえに、その存在自体を人に言いにくい。
立ちっぱなしの途中で脇汗パッドを貼り替えることになったが、こういうことは女友達にも言えないのでここで言っている、という投稿
「女友達にも言えないのでここで言ってる」。この記事を書こうと思った理由の半分くらいは、この一文です。パッドを貼り替えたことなんて、本当は誰に言ってもいいはずのことなのに、言えない。だからXに書く。そうやって書かれた声を、私は毎日読んでいます。言えないままでいいけれど、ひとりで抱えているわけではない、ということだけは知っていてほしい。
染みを防ごうと制汗ローションを塗りたくったら、かえって脇がびしょびしょになって染みができた、という投稿
こちらは小説家の似鳥鶏さんの投稿。対策したはずなのに、対策のせいで染みる。当事者なら一度はやる失敗です。笑ってしまうと同時に、「対策すればどうにかなる」と信じていた頃の自分を思い出しました。
共通しているのは、「見られる」つらさ
手汗編では、悩みの核は汗そのものより「汗を人に触れさせてしまうこと」だと書きました。脇汗の場合、核は「見られること」です。
染みは、本人が気づく前に他人が気づくことがあります。腕を上げられない。つり革を持つ側を決めている。ジャケットを脱げない。会議室で腕を体に貼りつけている。脇汗持ちの一日は、見られないための小さな動作の連続でできています。
そしてもうひとつ。見られる側の人間は、人の脇も見てしまう。
昔から多汗症で夏も冬も汗だらけなので、ライブのアンコールで脇汗をかいていないアーティストを見るたびにすごいと思う、という投稿
わかります。私もテレビでノースリーブの人を見ると、まず脇に目が行きます。自分にないものを持っている人を、つい確認してしまう。それくらい、脇汗は当事者の視界の中心にあります。
ここで、少し違う角度の投稿を。
1770年代フランスの宮廷衣裳の腕を上げると脇汗の染みが残っている、貴族だって脇汗をかく、という衣服標本家の投稿
250年前の絹のドレスに、脇汗の染みが残っている。これを見たとき、なんだか気が楽になりました。着ていた人は当時の最上流の人で、それでも脇には汗をかいていた。汗は人間の標準装備で、私たちはその量が少し多いだけです。
みんなの工夫
このシリーズの目的は共感なので対策は深追いしませんが、脇汗に関しては工夫の声がとても多いので、ひとつだけ。
制汗剤で脇汗はぴたりと止まり今も悩んでいないが、代わりに別の場所の汗が止まらなくなった、という投稿
止めた汗が別の場所から出てくる、という感覚は当事者の間でよく語られます。塩化アルミニウム系の制汗剤で脇汗が楽になったという声は多く、仕組みや注意点は塩化アルミニウムって何?にまとめました。服の色を選ぶこと、汗取りパッドやインナーで染みを見せないこと、替えのシャツを持ち歩くこと。工夫でしのげる日と、しのげない日がある — それも含めて「わかる」なのですが。
脇は、保険で使える選択肢が多い部位
最後に、この投稿を紹介させてください。
これまででいちばん効果を感じてやってよかったのは脇のボトックスで、脇汗を気にしなくてよくなりQOLが上がった、という投稿
これは「効いた人の声」であって、誰にでも同じ結果を約束するものではありません。ただ、知っておいてほしい事実があります。多汗症の中でも、脇は保険適用の治療の選択肢が充実している部位です。
- 2012年11月から、重度の原発性腋窩多汗症(脇の多汗症)へのボツリヌス注射が保険適用になっています。効き方と「効く代わりに起きること」はボツリヌス注射の記事に整理しました
- 2020年11月には、脇の多汗症を対象とした国内初の保険適用の塗り薬(エクロックゲル5%、一般名ソフピロニウム臭化物)が発売されました
- 2022年5月には、1回使い切りのシートで拭くタイプの塗り薬(ラピフォートワイプ2.5%、一般名グリコピロニウムトシル酸塩水和物)も発売されています
どちらの塗り薬も適応は原発性腋窩多汗症、つまり脇汗そのものに対する処方薬です。先ほどのガイドラインでも、脇の多汗症に対して保険適用の外用抗コリン薬(この2剤のことです)は「行うことが勧められる」治療と位置づけられ、重症例へのボツリヌス注射も同じ推奨度で並んでいます。効果や副作用には個人差があり、合う合わないは医師と相談して決めるものですが、「制汗剤を試し尽くしたら、あとは我慢するしかない」という時代では、もうありません。
ガイドラインは原発性局所多汗症を、温熱や精神的な負荷によって、あるいはそれらによらずに大量の汗が出て、日常生活に支障をきたす状態と定義しています。冒頭の「暑くないのに出る」「冬でも出る」は、まさにそれです。受診の目安(寝ている間は止まっている、週1回以上困る、など)と受診の入口については多汗症の基礎知識にまとめてあります。行くかどうかを決めるのは、あなた自身でいい。ただ「そういう選択肢がある」ことだけ、ポケットに入れて帰ってください。
まとめ
グレーが着られない。冷房の部屋で自分だけ汗をかく。パッドを貼り替えたことを誰にも言えない。ここに並べた声のどれかに「わかる」と思ったなら、それはあなたがひとりではない証拠です。
このシリーズは次回、足汗編に続きます。Xで見かけた「わかる」の声を、これからも集めて並べていきます。